まるで人生だね

最近考えてること。サブカル。

『フリクリ プログレ』感想

 

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さて、前回に続いて『オルタナ プログレ』の方の感想を綴っていきます。

momizi1028.hatenablog.com

 

 

ボロクソに語ってきた『オルタナ』だが、それに対し『プログレ』はまだ褒める所があったように思う。しかしそれはそれ、これはこれ。受け付けない所も多々あったので、しっかりと批判していく。

 

※ 以降の記事では2000年のOVA作品『フリクリ』のことは『フリクリ』と表記し、『フリクリ オルタナ』のことは『オルタナ』、『フリクリ プログレ』のことは『プログレ』と表記します。

 

flcl-anime.com

 

 

 

桃源郷のような1話

オルタナ』が『フリクリ』のリリカルな側面をクローズアップしているのに対して、『プログレ』はスタイリッシュさや痛快なカットに焦点を当てて作られているので、まずはそういった面から見ていこうと思う。作画とか。

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物語は、本作のメインキャラ・ヒドミの夢のシーンで始まる。身体がボロボロと崩れ落ちていくヒドミの頭から男根のような突起が生え、ロボットに変身を遂げてメディカルメカニカ(以下MM)のアイロンをブッ飛ばすカット。このあたりで、きっと観客は皆思う。「あれ?これもしかしてめっちゃいい出来なんじゃない?」と。

 

それもそのはず。このシーンの作画は、『フリクリ』で数多くの名シーンの原画を描きあげた西尾鉄也氏が担当しているのだ。『フリクリ』だと2話でのハル子とMMのロボの戦闘シーンとか。あとちょっとニッチな話だけど、『GTO』OPの

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ここのカットとかも西尾氏が担当のはず。すっごいアニメーターさんなのだ。

あそこは最初のつかみだったので、カロリー度外視でやっています。原画もしっかり盛り上げられる人にお願いしたいと思っていたところ、篠田知宏さんや西尾鉄也さんにやっていただけました。

フリクリ プログレ』パンフレットより

と1話の監督、新井和人氏は語る。

 

そんなかっけえシーンで幕開ける『プログレ』第1話。その後も轢き逃げシーン等『フリクリ』のオマージュに次ぐオマージュで顧客のニーズに応えようとしてくる。あざといなと思いつつも正直ワクワクが隠せないのである。ずるい。そしてラストで「本命登場だぜ」と言わんばかりの、満を持してのラハル登場シーン。極めつけにthe pillowsの「spiky seeds」でED。しかもEDのシーンには、輝かしい栄光を傷付けない程度にナオ太やマミ美の成長した姿っぽいカットも出てくる。泣きそう。

1話の出来がほぼ完璧だ。『オルタナ』といううんこ味のうんこを乗り越えた僕らは、『プログレ』1話でカレー味のカレーにありつける。そんな女神の救済にも錯覚するような事実を疑わずには居られなかった。

 

 

 

地獄のような2話

そう、本当に錯覚なのだ。2話を見たぼくらは、カレー味のカレーがカレー味のうんこだったことを思い知る。

 

youtu.be

こちら、海外勢からの流出動画ではあるのだがこの際どうでもいいだろう。なんだこの作画は。今どき深夜アニメでももうちょっと動くだろう。ぼくたちがいったいなにをしたというんだ。どうしてこんなおもいをしなきゃいけないんだ。

2話も途中までは悪くないのだ。ヒドミが井出の家庭事情(?)を知り、彼の性格のバックボーンを理解することで心惹かれ始める。そこまではいいのだが、2話の盛り上がるシーンでこれである。クリエイターのチャレンジ精神は一体どこにいったのだ。

そして3話では、ラハルとジンユが一時休戦して海水浴ときた。『プログレ』では人間ドラマよりも痛快な画面作りに重きを置いている、それは分かっているのだが、なんというか、『フリクリ』とこうも奥行きに違いが出るのかと... 本家の3話っていったらニナモリ回だぞ?それでいいのか『プログレ』?と悶々としながらスクリーンに向き合っていた。

 

 

 

挽回の4話と、バットを振る5話と

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4話からはそれまでの困惑を挽回するかのようにアッパー感が増す。MMの怪電波でヒドミのテンションがおかしくなるという展開がもう結構イカしている。更にラハルVSジンユ。一体2話はなんだったのかという作画枚数。いや2話はマジでなんだったんだ。

 

そして来たる5話。こちらはかなり挑戦的なエピソードに仕上がっている。

監督を務めるのは「謎のアニメ団」所属の末澤慧氏。

    デジタル作画なので今回は最初から太い線を選択して、太い線で原画を描いてます。線も太いし、ペンの入り抜きもあるし、途中で途切れているところもあるっていう。

    わかりやすく言うと、高畑勲監督が『かぐや姫の物語』でやっていたことの、デジタルの簡易版というか。原画の人が描いた絵をそのまま実際の画面に反映する、そういう手法でやってみよう、と。

CONTINUE vol.55  より

 

末澤氏のインタビューを簡単にまとめると、原画と動画で作業を分担する従来の方法ではなく、一人のアニメーターの絵をそのまま完成近くまで持っていくという方法。完成したものを見てみると、線のひとつひとつに表情が付くことによって、とても生々しい絵に仕上がっている。いわばグロテスクと言っても過言ではないほどに、キャラクターの感情が浮き彫りにされている。これはすごい。この18年で進化した制作環境だからこそ試みることができた挑戦であろう。また、5話ではマンガを使った演出も挿入してある。更に終盤のラハルVSヒドミもグリグリ動くし、ほぼ言うことなし。

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そう、こういうの!こういうのが観たかったの!1話で幻視した桃源郷は、ここにあった。初代へのリスペクトを持ちつつ、これでもかというくらい新しい試みを盛り込んでみる、そんな2018年のフリクリを僕は見たかったのだ。今回『オルタナ』『プログレ』を通して一番全力でバットを振ったのは、間違いなく末澤慧監督だ。彼と「謎のアニメ団」という名前を知れただけで収穫だったと思う。

より詳しい特集記事を貼っておきます。ぜひ読んでみて欲しい。

 

え、6話はどうだったかって?まあ、うん...

 

 

 

痛快ならばそれはフリクリなのか

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画面作りはかなり頑張っていたし、4話のラハルVSジンユと5話は本家『フリクリ』の喉元にも噛み付いていたように思う(一話冒頭は本家と同じ人が参加してるからノーカン)。すっげえよかった。また、かなりの考察を要求してくるのも実に『フリクリ』らしい。ぶっちゃけカンチとかナオ太の手に渡ったはずのリッケンとか出てくるんだけど、整合性が全然分からんもん。

 

ただ、それだけでは『フリクリ』の看板を背負うには物足りない。そこに情緒はあったのか。

今回のキャラクターは中学生達であるため、ほか2作に比べても性への興味が物語に直結している感が強い。しかしその描写は少々陳腐だ。教師に扮したラハルが授業の一環として学生にAVを見せるのが最たる例だろうか。また、ヒドミのN.Oが反応を示すタイミングも、かなり性的な感情に直結している。そこが受け付けるか、またはイカした描写として捉えられるかは好みが分かれそうな所。『フリクリ』では、設定や背景にメタファーとしてうまく落とし込んでいたからこそ、4話で露骨な性描写が出てきた時にテーマが引き立つのだ。終始そんな調子で展開されては、ひとつひとつが印象に残らない。

 

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次に、新キャラのアイコ。彼女の掘り下げがまた致命的に足りていない。レンタル彼女に身を染めてお金を貯めているという設定はいくらでも面白くできただけに、非常に勿体ない。父子家庭のアイコと母子家庭のヒドミという対比をもっと絡められれば、親子関係という今作のテーマのひとつをより説得力のあるものとして確立できただろうに。

 

 

オルタナティヴなハル子

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今作のハル子は「ラハル」と「ジンユ」に分裂している訳だが、この設定は非常に前衛的でよかった。

トムスクが好きだから"手に入れたい"ラハルと、アトムスクが好きだから"自由でいて欲しい"ジンユの対立は、一度は欲しいものを手に入れてしまったハル子の葛藤が視覚的に分かるというのも悪くなかった。

 

これまで描かれていたハル子と大きく違うのは、ハル子が俗物的な立ち位置まで目線を下げてきたことだ。それまで欲しいものの為にはいくらでも人を利用してきたハル子。一種の抗えない災害のようなキャラクターが、しかし今作ではヒドミと井出に噛み付かれる。ヒドミの「結局あんたも好きな男追いかけてるだけじゃないか」という旨のセリフが印象に残る。更に、鳥の姿をしていたことで超常的な雰囲気を持っていたアトムスクは今回人型になる。この一連のシーン群によって、これまでオブラートに包まれなにか神聖なものとさえ錯覚していたハル子の執着心は、一気に中学生の恋愛と同じレベルにまで落とされる。

今作のタイトルは『プログレ』であるが、こちらのハル子の方がよっぽどオルタナティヴだったように感じる。『オルタナ』の方は微塵も前衛的だと思えない。かといって『プログレ』のハル子が好きかというとまた微妙なんだけども。少なくとも僕は、トムスクが手に入らなくて泣きじゃくるハル子さんを見たくて映画館に来たわけじゃない。ちょっと残念だった。

 

 

計算された混沌と投げっぱなしの混沌

最終的に物語は半ば唐突なハッピーエンドで終わる。ヒドミと井出がチューしておわり。

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上記でも書いたが、考察をかなり要するストーリーだと思う。しかし『フリクリ』と違うのは、最終的にこれと辿り着けそうな答えが多過ぎて、考察する気にならないということだ。綿密な設定がある訳ではなく、想像にお任せします的なトコが多いのだ。

最初は台本を読んでわからないところがあったとき、私がまだ経験が浅いからわからないだけで、先輩たちは理解できているんだろうな、と不安に思っていたんです。でも他の皆さんも、私と同じことを思っていたので安心しました(笑)。

しかも、みんなで「どういう意味なんだろうね?」と話していたら、監督や音響監督から「わからないところはわからないと思いながら演じてください」という開き直った、とても清々しい答えが返ってきたんです。

フリクリ プログレ』パンフレットより

ヒドミのCVを務めた、水瀬いのり氏の発言である。こういうことだ。アニメーションとしてはもう複数回見たくなるシーンが多々あった。結果的には狙った方向性にヒットを飛ばせている訳だから、及第点ではあるだろうし、狙ったものすら作れていない『オルタナ』よりはよっぽど出来がいい。ただ、それだけでは『フリクリ』にはまだ足りないのだ。総括すれば、そんな所である。

 

 

 

 

ここまでで一旦、それぞれの作品にクローズアップした感想は締めたいと思いまする。最後に次の記事で、『オルタナ』『プログレ』に共通する問題点とかを色々洗い出します。ピロウズのことはそっちでめっちゃ書きます。まさかこんな長くなってくるとは思わんかった。つづく!